高松赤十字病院 院長ブログ

うまげな患者塾

コロナ第2波が早くも押し寄せて来た

   前回コラム(6月24日)の時点では、緊急事態宣言が解除され、コロナウイルス感染は落ち着きつつある状況でした。夏になれば紫外線に弱いウイルスの活動は低下するものと思っていましたが全くその予想ははずれました。東京を起点として関西、中京、九州地区に次々と大量のコロナ陽性患者が発生してきました。香川県でも7月16日に10名の患者が発症し、にわかに緊張感が高まりました。このうまげな患者塾のコラムでは様々な医学・医療に関する情報提供を考えていたのですが、やはり今回もコロナ第2波の話題を中心にお話しさせていただきます。

 
  まず、現在の第1波を上回る陽性患者数についての見解です。よく言われているようにPCR検査数が増加したために無症状者の陽性者が多く発見され、また若年者が半分以上を占めるようになっています。高齢者が少ないため、重症者もまだあまり増えていません。7月31日時点での日本全体での感染陽性者は9900名あまりで、これは4月に最も多かった27日の9400名を上回っています。一方で全国の人工呼吸器を必要とする重症患者数はピークがやはり4月27日前後で312名、7月31日は87名となっており30%弱程度にとどまっています。もちろん、これかからさらに高齢の陽性者が増加すれば4月と同じような状況となる可能性は十分あり得るので注意深く見守る必要があります。第1波の時は検査態勢が不十分であったため見かけの陽性患者数が少なく発表されていたのでしょう。もし現在と同じ検査体制であれば、おそらく今の3−4倍の患者数が当時報告されていたのではないかと推測します。

 
  第1波の時と違って現在では、このウイルスに関してかなり多くの知見が集積されてきました。検査体制ではPCRのみならず、迅速に測定できる抗原検査も可能となりました。抗原検査の中でも定性検査(+かーの判定のみ)だけでなく、抗原定量検査(ウイルス量を測定)も可能となり、当院でも採用しています。検査治療薬についてはウイルスそのものを減らす・退治する抗ウイルス薬がいくつか候補に上がっています。日本で開発されたアビガンは6月時点では残念ながら有効性が証明されませんでした。しかし、内容をよく見ると有効であった可能性はあり、投与対象患者が少なかったために証明できなかったのかもしれません。今後もう少し大規模な比較試験で有効性が証明できればと思っています。肺炎やサイトカインストーム(体内で主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質が異常に増加する現象)に対しての治療法は現存する治療薬で有効性が確認されたものもあり、期待できます。ワクチンについては、私は個人的には少なくとも2年以上経たないと、効果が期待できるものは確立できないのではないかと思っています。ウイルスそのものが変異しやすいこと、安全性を確認しなければならないことなど、ハードルはかなり高いのではないでしょうか。ただ、遺伝子組み換え技術を使ったワクチンは最新の技術でありこれについては、ひょっとしたら実用化が早いかもしれません。

 
  孫子の兵法で「敵を知り己を知れば百戦あやうからず」という名言があります。敵(ウイルスの病態)を把握し、己(患者さん、病院)も対処法、状況を把握して診断、治療にあたれば、戦いに勝利できるというわけです。一方で「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり、戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」という名言もあります。これは戦わずして勝てる(あるいは制圧する)のが最善という意味です。すなわち、ウイルスを相手せず、距離を保って、しっかりとマスク、手洗いをして予防する、ということが最も大事ということを意味しています。戦わずして勝てることが一番ですが、もし戦うことになっても、以前より探知能力はアップし、武器もいくつかあります。ただ、多くの敵が押し寄せてきた場合はお手上げになる可能性があるので、その予防戦略、段階的戦力投入戦略をしっかりと構築しておく必要があります。



 
  今回の波がいつ収まるかはまだわかりません。そして、いったん収まってもまたこの秋冬には必ずもう1回本格的な波が来ると予想しています。私ども医療者は万全の準備をし、予防に努めつつ、いつ患者さんが来ても対応できるよう態勢を整えています。なお、日赤本社が「3つの感染症」に注意しましょうという提言を行っています。第1の感染症は「病気」で第2は「不安」、そして第3は「差別」です。私どもは病気という感染症だけでなく、過剰な情報や見えない敵への恐れ・不安があり、これもヒトへ感染します。また差別・偏見は感染症患者のみならず、医療者も攻撃し、信頼関係が破綻します。このように病気以外の感染症にも注意していただくようお願いします。