高松赤十字病院 院長ブログ

うまげな患者塾

簡単ではない病気の診断

 安倍首相が辞任を発表されました。政府のコロナ対策に関しては色々と批判がありました。しかし、未知の病原体相手に暗中模索の中、死亡者が欧米よりも圧倒的に少なく抑えられていることはある程度評価されてもいいのではないかと思っています。3月、4月は検査体制が整っておらず、種々情報入り乱れた中で政策、決定せざるを得ませんでした。経済と感染防御の両立は誰が考えても大変困難です。ただ3月の一斉休校やアベノマスクは余計でしたね。本当に長い間お疲れ様でした。

 さて、コロナ第2波は政府の新型コロナ分科会において、7月末−8月の初め辺りがピークであったとの見解が打ち出されました。確かにこの原稿執筆時の8月末の時点ではピーク時の半分程度まで減っているようです。ただ、感染経路が特定できない症例の割合は50%を越えており、適切な感染対策を怠ると再拡大となるリスクは続いています。今後どうなるかは不確定で、第1波の時と同じように一旦収束するのか、その前に新たな波が勃発するか、予断を許さない状況は続いていると言えます。いずれにしても、冬になってインフルエンザも含めた発熱患者や風邪症状の患者が増加してくると、医療機関はコロナを含めた色々な病気を想定して対応しなければなりません。

 6月末からの第2波においては重症者の数が第1波より少なく、したがって死亡率も低下しています。日本COVID-19対策ECMO (エクモ)netという組織があり、全国600以上の病院が参加して、毎日エクモ装着患者、および重症者(人工呼吸器装着患者)の集計を行ってホームページで公開しています。エクモの装着数は1月―5月末まででおよそ170症例、6月―8月では55症例前後であり、1/3程度と減っています。因みにエクモは既にマスメディア等で紹介されているのでご存知の方も多いと思いますが、簡単に説明すると患者さんから血液を抜いて人工肺で酸素加してから血液を体内に戻し、一時的に肺の代わりをする装置です。肺そのものを治すのではなく、肺の機能が極度に低下して人工呼吸器だけでは維持できない時、肺の機能が回復するまで用いる医療機器です。私の専門である心臓外科では以前よりこの機器をしばしば使用しており、当院でもかなりの症例経験があります。ただし、今回のCOVID陽性患者での経験はありません。先程のエクモnetでの報告の続きですが、人工呼吸器装着患者はそれぞれ550例、360例程で、こちらは2/3くらいに減少しています。すべての病院のデータではありませんが、少なくとも8割以上はカバーしているとされています。

 第1波よりも全体の感染者が多いにもかかわらず(1.7万人対5.0万人)、第2波で重症者が少ない原因については次のような事が考えられています。1)第1波時の検査不足、2)第2波では若年者が主体、3)早期発見が可能となって軽症の内から治療開始、4)ウイルス変異で弱毒化説 などです。1)については第1波の時は検査体制が不十分なため有症状者優先で検査をしていたので、全体の感染者数が少なく報告されていました。実際は4−5倍あるいはそれ以上発生した可能性があります。東京のP C R検査陽性率は当時30%を超えていましたが、現在は5%前後で推移しています。陽性率は何%が適切かは議論のあるところですが、3−5%以下であれば、大体感染の把握はできていると言われています。ちなみに香川県は多かった時でも3%くらいで、ほぼずっと1%以下で推移しています。2)の若い陽性者が多いことから、当然重症者も減ることが想定されます。しかし、8月24日の専門家会議での分析(第6回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード、資料3)では高齢者の致死率は第1波、第2波であまり差はなかったとのことでした。ただ、50歳未満で重症となる症例はあまり見られなくなったようです。3)については前述の専門家会議の分析で発症から入院までの期間は第2波で明らかに短くなっており、また入院時における症状は第2波で軽症が多くなっています。4)についてはウイルス専門家によって見解がまちまちのようです。ウイルス変異はかなりの頻度で起こっているようですが、弱毒したかどうかについてはまだデータが十分でないようです。重症者の割合は今は減っていますが、この秋冬はどうなるか、全く予想がつかないので、万全の準備が必要と感じています。



 さて、本日のタイトルである「簡単ではない病気の診断」についてお話しします。発熱した時、普通の風邪のようだがインフルエンザもコロナも心配しなきゃいけない、でもこの3つの症状は似ている、さてどうしよう、という問題です。発熱の原因はウイルス感染ばかりでなく、細菌性の咽頭炎、肺炎、膀胱炎、胆道炎、その他腫瘍熱など、様々な可能性があります。医療機関に行けば、まずは問診で発熱の場合はいつからか、随伴症状(咳、息切れ、鼻水、喉の痛み、下痢、嗅覚・味覚異常)があるか、そして大事な接触歴・滞在歴などを聞きます。時間があれば身体全体を診察しますが、多くの場合は症状に合わせて局所的(腹部症状であれば腹部の触診や聴診、喉の痛みであれば咽頭の所見など)に集中して診ます。次に血液検査、心電図、エコー、画像検査などを適宜、組み合わせて行います。インフルエンザ、新型コロナそれぞれの流行状況や疑わしい所見などあれば、それぞれの検査(インフルエンザ抗原検査、新型コロナ抗原検査またはP C R検査)を行います。新型コロナの抗原検査は定性と定量があり、いずれも短時間で結果が分かり、定性の方はかなり多くの医療機関で施行可能となってきました。P C R検査(あるいは核酸増幅検査)は一部の医療機関、行政のみの対応となり、少し時間を要します。この冬の体制については、まだはっきりしないところもありますが、かなり検査体制は整いつつあると言えるでしょう。インフルエンザでも新型コロナウイルスでも検査陽性であれば、診断はほぼ確定します。ただし、陰性の場合の判断は要注意で、潜伏期間中(インフルエンザで12-24時間、新型コロナで1−12日)や採取時のウイルス量が少ない場合、検体採取部位(咽頭、唾液、喀痰)によっては陰性となる場合(偽陰性)があるので、注意が必要です。陰性の場合は他の所見(肺炎所見、血液検査等)も参考にして、総合的に判断することになります。新型コロナのC Tの肺炎像はかなり特徴的と言われています。インフルエンザ、コロナ共に陰性の場合、除外診断として風邪と診断することもあります。しかし、流行期においては2−3日経過を見ないと最終診断は難しく、症状が改善しなければ再検査する場合もあります。これが検査による診断が万能ではないと言われる主な理由です。診断は早いに越したことはありませんが、発症初期の場合には陽性と出にくく、見逃されることもある訳です。後医は名医という言葉があります。後で診る医者は症状がすべて揃っているので正確な診断が可能となり、初めに診察した医師よりも優れているように見えることを言います。新型コロナに関して、一応厚労省が推奨している受診相談の目安は、息切れ、だるさ、高熱などの強い症状があれば直ちに、また比較的軽い症状の時は4日後に相談・受診を勧めています。要は軽症の場合は、出歩かずしばらく家で大人しくしてね、ということです。

 さて、皆さんは研修医と関わったことも多いと思います。医学部を卒業し医師免許を取得した後、2年間は研修医として研修指定病院で研修することが義務付けられています。当院でも常時20名以上の研修医が診療に従事しており、救急外来や病棟で活躍しています。研修医の成長は本当に早く、数ヶ月で見違えるように頼もしい医師に育っていきます。彼らが作成した新型コロナのサンクスメッセージ動画が当院ホームページでご覧になれます。下記にご紹介しますので是非ご覧ください。