高松赤十字病院 院長ブログ

うまげな患者塾

「免疫とワクチン」

新型コロナウイルス感染症は今のところ日本では沈静化しており、昨年の第1波後と同じくらい低いレベルで推移しています。一方で11月末からオミクロン株という感染力の強い新しい変異株が出てきました。このウイルスは30箇所以上の変異部分があり、従来株、アルファ・デルタ株など、いずれの系統とも関連性がないようです。まだ重症化率やワクチン有効性についてはよくわかっていません。WHO、日本ともこのウイルスをデルタ株などと同様にVOC(懸念される変異株)に位置付けました。今月末くらいまでに少しずつ全体像が判明してくるでしょう。なお、現時点で世界的に流行しているのはどの国でもデルタ株です。

さて、前回のうまげな患者塾でコロナの感染の増減にはウイルスそのものの変容が関与しているのではないかと述べましたが、感染者数がピークアウト後に感染増大前よりもさらに低下したことについて、ワクチンの効果は大きいと思っています。ワクチンの接種率は2回接種完了者が現時点で国民全体の78%に達しています。65歳以上でほぼ90%以上、40歳代以上でも80%以上の接種率です。若年者の接種率がどうなるか危惧されましたが、10代、20代でも70%を超えています。行動範囲の広い若年者の接種率が高いことが日本での感染鎮静化に寄与していると思います。


表1年齢階級別接種実績 12月6日公表時点(首相官邸ホームページより)

また国の感染症対策アドバイザリーボードでの報告では以下のように現時点ではどの年齢層においてもワクチン接種済みのほうが陽性者は1/4-1/10程度に抑えられています。現時点でのワクチンの感染予防効果は明らかです。


表2 ワクチン接種歴別の新規陽性者数(11/8-11/14)


さてワクチンがなぜ効果を表すかについて、免疫の観点から少し説明します。
免疫には大きく自然免疫と獲得免疫があり、後者はさらに液性免疫と細胞性免疫に分類されます。
自然免疫においては、マクロファージ、ナチュラル・キラー細胞(NK細胞)、などが直接、ウイルスや細菌、異物を排除します。ヒトの本来持っている免疫力です。この自然免疫を増強させる方法がいわゆる「免疫力を上げる」方法として色々と提唱されています。ストレスのない生活習慣、バランスの良い食事などです。もう一つの獲得免疫のほうは一度侵入した病原体に対し、いち早く対処できるよう記憶された免疫システムです。獲得免疫の一つの液性免疫では体内に異物・ウイルスなどの病原体が侵入すると、これを抗原として認識します。その後ヘルパーT細胞(胸腺由来)というリンパ球の一種が働いてB細胞(骨髄由来)の増殖を促進し、抗体産生細胞に分化して抗体を作ります。この抗体が異物(抗原)と結合して無毒化・排除します。B細胞とヘルパーT細胞の一部は記憶細胞となって2回目以降の同じ抗原の侵入に備えます。細胞性免疫では抗体を介さずに、抗原提示を受けたキラーT細胞やマクロファージが直接異物(抗原)を攻撃し破壊します。キラーT細胞も記憶細胞となって体内に残ります。この獲得免疫の仕組みを利用して人為的に抗原を提示させ、液性免疫や細胞性免疫を生じさせるのがワクチンです。


図1 免疫の種類、働き、担当細胞、対象

ヒトの免疫システムは極めて複雑であり、上記の図は簡単にまとめたものに過ぎません。免疫全体では多くの細胞が複雑に働いており、現在でも解明されていないことも多くあります。ワクチンにより液性免疫と細胞性免疫の両方が活性化されることがわかっています。液性免疫のほうは抗体価を測定することによりどの程度維持されているかが、ある程度わかります。現在日本で主に使用されているmRNA由来のワクチン(ファイザー製、モデルナ製)では6ヶ月程度で抗体価は減少しています。ただ、減少しても一定程度の効果は残っています。細胞性免疫についてはこれを簡便に測定する方法は今のところありませんが、かなり長い期間効果は続いていると考えられています。つい先日、理化学研究所より、日本人に特有の白血球の型(HLA)が、従来の風邪コロナウイルスと新型コロナに対して同じように反応することがわかったと報道されました。これの意味するところは上記の細胞性免疫の仕組みで、風邪コロナウイルスに感染した人は新型コロナにも同様に反応してキラーT細胞が活動し、感染した細胞をやっつけてくれることになります。ワクチンとともに、このような免疫の研究成果が今後期待されるところです。

さて3回目のワクチン接種が始まりました。3回目の接種を受けるかどうか、迷っている方もおられるでしょう。副反応が強かった場合は尚更です。総合的な判断として、重症化予防の観点から40歳以上の方は接種したほうが有利と言えます。感染予防の観点からはやはり18歳以上の方の接種も推奨されます。副反応の程度については1回目接種と同じくらいではないかと言われています。個々人の3回目接種の判断材料としてください。

オミクロン株が日本にも入り込んでいますが、流行化するのかどうか、ここ数週間の注意が必要です。正体がわからないので不安もありますが、今のところ重症化は少ないようです。なお現時点では冒頭に述べましたように、圧倒的にデルタ株が優勢です。もうしばらく、おそらく2、3か月くらいはデルタ株が主流でいずれはオミクロンに代わるのではないかと推測されます。オミクロン株に対して現在のワクチンが有効かどうかはまだわかりませんが、もし毒性が低いのであれば心配は無用です。もし新たなワクチンが必要になったとしても、現在のmRNAを使った技術によって、数ヶ月以内にワクチンはできるとのことです。もしオミクロンが感染率は高い一方で重症化率が低いのであれば、この変異株を最後に新型コロナウイルスが普通の風邪になる?という期待もあります。

日々の努力としてマスク、手洗い、3密回避などの感染予防対策は依然として必要です。それと共に自然免疫を上げる努力として、ストレスのない生活、適度な運動や入浴、質のよい睡眠、偏らない食事、発酵食品、ビタミン類摂取など、日頃の生活習慣にも気を配ってください。

院長 西村 和修