高松赤十字病院 院長ブログ

うまげな患者塾

「今、コロナ対策で考えること」


  11月後半から全国的にコロナ陽性患者が急増し、全国で2500人以上と過去最多の感染が報告されています。北海道や首都圏、関西圏、中京圏を中心に顕著な増加が見られ、このまま放置すれば急速な感染拡大に至る可能性が指摘されています。感染者数増加に伴って入院者数、重症者数が増加し、病床占有率も上昇が続いています。この状況が続けば予定された手術や救急医療の受け入れを制限せざるを得なくなるなど、通常の医療との両立が困難となります。このウイルスは無症状者が多く、潜伏期間もやや長め(平均6日程度)であるため、発症初期に捉えられにくく、医療者にとっても本当に厄介なウイルスです。

 香川県においても11月は46名と過去最多の発生となりました。一方で栗林公園ではライトアップもあり、こちらは過去最多の入場者数になったとのことでした。屋外でしっかりと対策を取れば感染リスクは少ないとも言えますが、一方で Go Toの影響のため各地でウイルスが拡散されているとの懸念も強くあります。元々冬季は低温でウイルスが繁殖しやすい上に、湿度低下で浮遊する飛沫が長時間空中に存在するため、ウイルス感染を生じやすくなります。これはコロナに限らず、インフルエンザ等でも同様です。よく言われるようにウイルス対策の基本はインフルエンザでもコロナウイルスでもあまり変わりありません。個人でできることはマスク、手洗い、3密回避、および換気に尽きると思います。

  さて、こういう状況下で、医療機関がどのように対策をとるべきかについて少し考えを述べさせていただきます。医療において最も重視することは、言うまでもなく患者さんの命を守り、苦痛を取ることです。軽い病気の多くは患者さん自身の力(免疫や安静など)で治ります。少し重症となると、入院が必要となり、薬や外科的治療などで回復を目指します。医療はあくまで患者さんが自分自身の力で良くなることをサポートするものです。私の専門の心臓手術においても、血管吻合や皮膚吻合を行いますが、それは患者さん自身の自然治癒力を利用することが前提となります。糸で縫合したあと、患者さんの組織内で癒合が生じて初めてその傷が治ることとなります。患者さん自身の免疫力や回復に向かっての自助力がないと、治療結果は芳しくないのです。コロナも自然に治る軽症者が8割以上であり、残りの2割程度が本当に医療を必要としています。もう一つ医療機関に重要なことは、圧倒的に多いコロナ以外の通常の患者さんの治療を行っているということです。例えば当院では1日の外来患者数1200名前後、入院患者数400名前後です。一方でコロナウイルス の患者は香川県で1日平均1−3名程度の発生です。無論、感染症は拡大することが脅威なので、院内に持ち込まないことは大事ですが、患者さんの割合から言うとほんのわずかということになります。都会で多くのコロナ患者を引き受けている病院であっても入院の10%以上の病院はあまりないでしょう。どこの病院も多くはがんや心臓病、脳卒中、骨折などの患者の治療に当たっています。救急医療も重要で、当院では高松医療圏で1/2位の救急患者の受け入れを行なっていますが、入院患者の約30%は救急からの入院です。現在医療崩壊の危機が叫ばれていますが、コロナでパンクするのではなく、おそらく通常の診療が行えなくなり、助かる命の多くが治療できないことが医療崩壊だと思っています。要約しますと、1)ヒトの自然治癒力は想像以上に大きく、コロナも多くは自然治癒する、2)病院はコロナ禍であっても救急も含めた通常治療を行なっている、ということをご理解いただきたいと思います。言い換えれば、コロナを必要以上に恐れる必要はなく、またどこか具合が悪ければ躊躇なく病院を受診していただきたいのです。我慢して悪化してからの受診は最悪です。

  さて、コロナに関する情報や知識が集積し、半年前とは医療者の対応もかなり変わってきました。以下に要約します。
1)    診断能力は量的にも質的にも改善した。これにより水際対策が向上し、重症者数も低下した。
2)    軽症者の扱いが宿泊療養となり、また退院基準変更もあって在院日数が低下した。 
3)    入院が早くなったことにより、重症化が減り、また重症化を抑える薬剤がわかってきた。
4)    一次対応をクリニックの感染対応医療機関が行うこととなった。主には抗原定性検査や
   インフルエンザ検査を行なって、必要であ れば基幹病院紹介という流れとなった。
5)    感染防御として院内でのユニバーサルマスクが定着した。2次感染防止に有効と考えられる。
6)    リスクの高い高齢者へ感染させないように、皆が最大限の注意を払っている。

  今後、感染がどうなるかの予測は困難です。また、感染リスクをゼロにすることも不可能です。我々医療機関は今ある知識を駆使し、現時点での最善を尽くすという他ありません。我々は県の提案するフェーズに合わせ、感染防止対策を徹底し、コロナ疑い患者、陽性患者受け入れ体制を整えて来ました。コロナ対策に万全を期すために細部にわたって検討を重ね、膨大なマニュアルも作成しました。ワクチンも臨床応用が視野に入ってきたということで希望も多いのですが、一方で目の前の患者数の増大が医療機関を圧迫しています。4月ころ、学校が休校となっていた時、ある小学生が発した言葉「コロナのバカヤロー」という言葉、医療機関に従事するものとして、心底いたく同感しました。ただバカヤローと言っているだけでは問題は解決しないので何とか医療者として地域の皆様に貢献できる対策を積み重ねているところです。あともう一つ、お寺の掲示板から「コロナより怖いのは人間だった」という警句がありました。コロナに関わる偏見、差別の無きようお願いします。

 最後に11月の医療安全推進週間に応募をいただいた医療安全川柳の作品を一部紹介します(応募38句)。下記の最後の一句、感染症はまさしく医療者への挑戦状です。打ち勝つよう頑張ります。

 【令和2年度 医療安全川柳 受賞作品】

「急ぐから 省いた一つが 一大事」
「早口で  何か教えて  くれました?」
「落とし穴 慣れた手順と 気の緩み」
「信頼が  命を守る   第一歩」
「感染症  医療職への  挑戦状」

                                        院長 西村 和修