さぬきの健康と元気をサポートする高松日赤だより

なんがでっきょんな

ガンのこと

肺がん

自覚症状が乏しく、転移もしやすい肺がん。 でも、早期に見つかれば根治が望める病気です。 肺がんの基礎知識とともに、 検査・検診の重要性を再認識しましょう!



切除した肺がん

切除した肺がん

肺がんとは、気管支や肺胞の細胞が何らかの原因でがん化したもの。肺門部のがんは早期から血痰や咳が出ることもありますが、末梢部(肺野)のがんは早期の自覚症状がほぼなく、咳、血痰、胸痛、呼吸困難などの症状が出る頃には進行している場合が多いのです。これらの症状も肺がんに特有のものではなく、他の呼吸器疾患との区別がつきにくいため、正確な診断には医療機関の受診が必要です。
肺は全身の血液が集まってくる臓器 であり、がんがあらゆる臓器に転移しやすいのも特徴。
特に脳や骨、 副腎、肝臓などに遠隔転移しやすい傾向があります。脳症状や骨の痛みなどの自覚症状で受診して、初めて肺がんが発覚するパターンも…。

肺がんの種類と特徴


種類 特徴 患部
非小細胞 肺がん 腺がん ・肺がんの中で最多 
・症状が出にくい

肺野
大細胞がん ・増殖が速い
・小細胞がんと同じような 性質を示すものも
扁平上皮がん ・咳や血痰などの症状が現れやすい 
・喫煙との関連
肺門 
※肺野部の発生も増加

小細胞 肺がん 小細胞がん ・増殖が速い 
・転移しやすい 
・喫煙との関連大
肺野・肺門ともに発生

日本におけるがん死亡の状況

  • 日本における死因第1位のがんは、年間死 亡者373,334人。
  • 部位別がん死亡率第1位の肺がんは、年間 死亡者数74,120人。
  • 肺がん患者数は男性が女性の2倍以上
  • 喫煙者が肺がんになるリスクは非喫煙者に 比べて男性で4.4倍、女性で2.8倍。受動 喫煙の危険性も指摘されている
  • 肺がんのリスクを高める喫煙以外の要因に は、アスベストやラドン、ヒ素、ニッケルをはじ めとする有害化学物質に触れる機会の多 い職業や、PM2.5などによる大気汚染、慢 性閉塞性肺疾患などがある

肺がん診療の流れ


まず病変の有無や場所を調べる

胸部X線:集団検診などで広く行われ ている最も身近な検査 胸部CT:X線ではわかりづらい数ミリ 単位の高精度な画像診断が可能、早期発見につながりやすい(当院は四国初の肺がんCT検診認定施設!) 喀痰細胞診:主に50歳以上で喫煙指数(1日の喫煙数×喫煙年数)が600以上の人が対象。痰の中にがん細胞が含まれているかを調べる

肺がんが疑われたら精密検査

検査結果を踏まえ、確定診断のための病理検査として、気管支鏡などによる組織採取、皮膚の上から胸水を採取する 「胸水穿刺」などを行います。がんと診断 されたら、がんの広がりや転移など全身をチェックする検査として「PET-CT」 「脳MRI」「腹部超音波検査」「骨シンチ グラフィ」などを実施。薬物療法を行う場合は、薬剤の効果を予測する「バイオ マーカー検査」を行います。

外科的治療か内科的治療か? 症状や希望も踏まえて検討

がんの進行度や体の状態、年齢、本人 の希望などを踏まえて、呼吸器内科・外 科合同で治療法を検討します。 進行度は「病巣の大きさ」「胸部リンパ 節への転移」「遠隔転移」などの因子で 0期~Ⅳ期に分類されます。

Ⓐ外科的治療:手術が可能な場合や根治を目指す場合
Ⓑ内科的治療:進行していたり転移が進んで手術が困難な場合

ステージⅠ期であれば外科的治療で約 8割の根治が見込めますが、Ⅲ期にな ると3割以下と低くなるので、早期発見が根治の鍵となります。

A 外科的治療

まず、術前1カ月以上の禁煙が必須! がんのある肺葉を切除する「肺葉切除」が標準で、片肺をすべて切除する 「肺全摘術」のほかに、腫瘍の大きさや状態によっては肺の一部のみ切除する縮小手術を行う場合もあります。

胸腔鏡手術

かつては胸を20cm以上開く開胸手術が主流だったが、胸腔鏡手術の精度が上がり、現在は胸腔鏡を利用する施設も増加している。高松赤十字病院ではH6年から全国に先駆けて胸腔鏡手術を実施、H23年から完全鏡視下手術を導入。特に肺がんは9割以上が完全胸腔鏡下術。 開胸手術に比べると切開部が5cm以下で患者の身体的負担が少なく、高画質モニターの拡大画像で肉眼よりはるかに細部が見えやすいため医師にとってもメリットが大きい。

内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」

高解像度の3Dカメラと制御精度の高いロボットアームを操作し、医師がオペレーターとなって行うロボット 手術。手ブレ補正や動きを繊細にするソフトウェア制御 がつき、複雑な多関節器具を操る鉗子用アームを複数本備え、人間の手で行う内視鏡手術では不可能だった動作も可能となる。 高松赤十字病院では主に泌尿器科で行 われてきたが、2018年度の診療報酬改定で新たに保険適用となり、肺がん症例も増えてきた。

B 内科的治療

薬物療法

薬剤を点滴や内服で投与し、全身のがん細胞に作用させる治療法です。副作用についての充分な理解に基づき、必要な要件を満たす医療機関・医師の診断のもとで投薬を行うことが重要。化学療法は単独で行う場合もありますが、手術や放射線治療を組み合わせて行う場合もあります。

  • 細胞障害性抗がん剤:いわゆる化学療法。がん細胞そのものの増殖を抑える。
  • 分子標的治療薬:がん増殖に関わっている分子の働きを阻害する。
  • 免疫チェックポイント阻害薬:いわゆる免疫療法。がん細胞が自己免疫機能にブレーキをかけられないようにする。

放射線治療

高エネルギーのX線を照射してがん細胞を死滅させる治療です。完治を目指す「根治的放射線治療」と、症状を緩和させるための「緩和的放射線治療」がありま す。小細胞肺がんの場合は、脳への転移を予防する目 的で「予防的全脳照射」を行うことも。薬物療法と並行 して行う場合は「化学放射線療法」と呼びます。 副作用としては、放射線を照射した部位に皮膚や粘膜の炎症 を起こすなどの症状が挙げられ ます。

治療後

経過観察は5年間が目安。その間、定期的な検査で状態を確認し ます。手術を受けた後のリハビリや、薬でうまく緩和しながら病気と 付き合っていく生活リズムの確立など、さまざまな社会生活への復 帰を、理学療法士や医療ソーシャルワーカーが心身ともにサポート します。  とはいえ、転移・再発する場合ももちろんあります。特に転移した 肺がんは一般的に手術で根治が難しいため、薬物療法が中心とな り、場所や症状に応じて放射線治療を行う場合もあります。治療が難しい場合も、症状や苦痛を和らげる緩和ケアを通じて、日常生活が送れるようお手伝いします。

予防と検診の重要性


自覚症状が乏しいため、発見のきっかけになるのは検診です。特にCT検査で発見されるがんが増えて います。高松赤十字病院は四国で初の肺がんCT検診認定施設であり、専門性の高い医師とスタッフが揃っていて、精度の高い検査が可能です。  また、肺がんは喫煙との関連が深い病気。予防のためには、バランスのいい食生活や適度な運動だけ でなく、喫煙者は禁煙を心掛け、非喫煙者もタバコの煙を避けて生活しま しょう。電子タバコも体にいいとは言えず、むしろ禁煙への努力を妨げることにもなりかねません。 H18年から当院を含めた認可医療機関で禁煙治療の保健診療が可能になっていますから、1日も早く禁煙を始めましょう。日本の受動喫煙対策は世界的にも低いレベルで、タバコの価格も先進国の中では最安。こうした面も、 社会全体で対策が求められる課題です。

呼吸器センターを核とするチーム医 療

肺がんをはじめとする呼吸器疾患のスムーズな治療は、担当診療科だけでなく、院内のさまざまな医療スタッフの協力体制が支えています。どんな人たちが関わっているのでしょうか?


2018年4月に開設された高松赤十字病院の呼吸器センターでは、呼吸器内科・外科の入院病棟を統合したシームレスかつスムーズな治療を行っています。
中心となるのは呼吸器内科と胸部(乳 腺)外科。メインスタッフ9名のうち呼吸器学会専門医が4名(うち指導医2名)、呼吸器外科専門医が3名(うち評議員2名)というハイレベルな体制に加えて、放射線科(放射線診断・放射線治療)、病理診断科との連携を確立。週1回の共同ディスカッションにとどまらず、日常的に情報共有できるのが強みです。患者さんにとっても、たとえば外科手術と術後の内科的な薬物治療が必要な場合などに、診療科転科の手続きに煩わされることなく治療を受けられるのがメリットと言えるでしょう。
呼吸器科だけでなく、肺がん治療の薬 物療法で副作用症状などが出やすい皮膚科・内分泌代謝科・神経内科との協力体制もいちはやく整え、院内全体で連携して治療に当たる環境が充実。肺がんCT検診認定医師・技師をはじめ、より高度な医療を担えるメディカルスタッフの育成にも意欲的に取り組んでいます。
看護やリハビリについても、高い専門知識を持った看護師・理学療法士がケアに当たるほか、専門薬剤師や栄養管理専門のサポートチームがあり、症状緩和については「がん患者サポートチーム」が担当。社会生活への復帰を支える医療ソーシャルワーカー、人工呼吸器を使用する患者さんに対する呼吸器ケアチーム(医師・看護師・理学療法士・臨床工学技士)の週1回診など、高い専門知識を持つ多職種が連携して患者さんの回復をサポートしています。
現在は入院病棟のみですが、建設中の本館北タワーが完成した後には呼吸器センター外来ができる予定。ハイブリッド手術室やPET・CTなども導入予定で、設備もますます充実する見通しです。


(写真中央) 第一胸部・乳腺外科部長(兼)呼吸器センター長 三浦 一真(みうらかずまさ)
・日本胸部外科学会指導医
・日本呼吸器外科学会専門医
より安全で確実な手術をどう実現していくかを追求。 約30年の高松赤十字病院勤務で「内科と外科の協力 体制が整っていて何事もスムーズ」と実感。

(写真右) 第二胸部・乳腺外科部長(兼)呼吸器センター副センター長 監﨑 孝一郎(けんざきこういちろう)
・日本呼吸器内視鏡学会指導医
・日本呼吸器外科学会専門医
患者第一に、根治とQOLを兼ねた治療や手術を目指 す。禁煙の啓発活動にも意欲的。休日は吉本新喜劇を見るのが楽しみ。

(写真左) 第二呼吸器科部長(兼)呼吸器センター副センター長 六車 博昭(むぐるまひろあき)
・日本呼吸器学会専門医
・日本がん治療認定医機構認定医
患者の話によく耳を傾ける姿勢を重視。高松赤十字病 院は呼吸器疾患の患者さんが多く、医師としても学ぶ ことが多い環境だと思っている。


表紙

なんがでっきょんな

vol.68

最新号

「高松日赤だより なんがでっきょんな」は、患者の皆さんに高松赤十字病院のことを知っていただくために、季刊発行する広報誌です。季節に合わせた特集や役立つ情報を掲載いたします。冊子版は、高松赤十字病院の本館1階の③番窓口前に設置していますので、ご自由にお持ち帰りください。左記画像をクリックすると、PDFでご覧になることもできます。

Take Free!

Columnvol.68の表紙のひと

診療放射線技師

当院が誇る高精度のPET-CT室にて撮影を行いました。撮影中の雰囲気は非常に良く、仲の良さが素敵な笑顔から伝わってくると思います。若手ながら高度な検査や治療を担当する優秀な5人。真面目で仕事熱心、そして常に知識・技術の向上に励んでいると上司からの評価も非常に高く、お互いに切磋琢磨しながら頑張っている彼らです。