腫瘍内科を軸に多診療科が連携 集学的がん治療と薬物治療
2021年に開設した当院の腫瘍内科。がんの中でも、転移していることはわかるけれど最初に発生した場所がわからない「原発不明がん」、症例がきわめて少ない「希少がん」、複数の臓器にまたがる「多重がん」など、各診療科の枠に収まりにくく診断が難しいがんに広く対応し、さまざまな種類のがんに関して、特に薬物治療の高い知見を持つエキスパートです。
こうした知見と、他診療科との連携という総合病院ならではの強みを生かしながら、患者さん一人一人に合わせて手術療法・放射線療法・薬物療法を効果的に組み合わせるのが「集学的がん治療」。腫瘍内科はその中核となって、がんの診断~治療、治療に伴う副作用や苦痛の軽減といった「支持療法」まで、切れ目のないケアを行います。
手術・放射線分野と同様に、薬も日々目覚ましく進歩しています。従来の薬物療法に使われる抗がん剤に加え、「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」「内分泌療法薬」といった種類が次々と増え、数年スパンで新しい薬が登場し、組み合わせによってさまざまな効果を発揮。10年ほど前に比べて患者さんの余命や予後が改善しつつあり、かなり症状が進行している患者さんが薬物治療によって手術を受けられるほどに緩和した例もあります。
胆管細胞癌・多発性肝転移の症例
65歳の患者さんの治療例。赤い丸で示した部分、治療前(before)は黒い影のように見えているがんが、薬物治療後(after)はほとんど消失していることがわかる。
がんの薬物療法には「ひどく嘔吐する」「髪の毛が抜ける」といったイメージが付きまといがちですが、近年は副作用を抑える薬も進歩し、心身の負担を軽減しながら治療を続けやすくなりました。「外来で治療を受けながら、がんと長く付き合う」患者さんが増えてきた時代、最新の薬を効果的に選択できるマネジメント力が当院の強み。患者さんにとっては治療の選択肢が増え、手術療法・放射線療法の効果を高めることもでき、副作用や整容面でもサポートできるという点で、治療にのぞむ際の安心にもつながっています。
支持療法とアピアランスケア
がんの症状や治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽減・予防し、できるだけ生活の質を守りつつ治療を継続するために行うケアが「支持療法」です。副作用などのストレスは患者さんの心身に負担をかけ、治療の効果を妨げる・治療の延期や中断が必要になるといったリスクがある一方、支持療法を早くから行えば治療効果を高める傾向があることもわかっています。
「アピアランスケア」は、当院が今後力を入れていきたい支持療法の一つです。治療の過程で体毛が抜ける、肌の色が変わる、皮膚や爪の変化、手術の傷跡や乳房の喪失といった外見(アピアランス)の変化に苦痛を感じる患者さんは少なくありません。「自分らしさが失われた」「人の目が気になる」といった悩みに寄り添い、見た目を整える医学的・整容的サポートや自分らしくあるための心理的・社会的サポートを「アピアランスケア」と呼びます。
治療が第一とはいえ、がんを外来でも治療できるようになり、生存期間も延びている近年、社会とのつながりを保つ上で「見た目」は重要な要素といえます。がん総合診療センターでは、スタッフ一人一人が患者さんの悩みを受け止めるとともに、ウィッグやメイクなど外見に関するケア商品の展示コーナーも設ける予定です。
遺伝子解析に基づく最新の治療 がんゲノム医療
がんゲノム医療とは、患者さんのがん細胞の特徴を「がん遺伝子パネル検査」で調べ、がんにかかわる多くの遺伝子のプロフィールから、その人のがんの性質や適切な治療法を探っていく医療です。検査結果を踏まえ、医師・看護師・臨床検査技師などの専門家が集まって、効果がありそうな薬や参加できる臨床実験・治験などを検討します。
2019年から一定の条件を満たせば保険適用となり、当院は21年4月に「がんゲノム医療連携病院」の指定を受けて、がんゲノム医療外来を開設。院外からの紹介も含め、年間40~50件のパネル検査を実施しています。
ゲノム医療の大きな特徴は、「合う治療法が見つかれば、従来の抗がん剤よりはるかに高い治療効果が期待できる」こと。検査結果が出るまでに1カ月程度時間がかかる、適合する治療法が見つかる割合は10%程度、検査費用が高額といったハードルはありますが、治療に使われる分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の種類が増えてきたことも受けて、以前に比べるとスタンダードな治療法になってきました。検査精度の向上や結果が出るまでの時間短縮も、年々進んでいます。これまで当院では180人中21人に保険承認薬による新たな治療薬がみつかり治療効果をあげています。
将来的にはがん以外にも遺伝子情報を活用した治療がさらに進むと予測され、最新の治療に対応できる環境を引き続き整えていきます。
遺伝子カウンセリング
パネル検査の過程で、遺伝的に発症しやすいがんや、その他の遺伝性疾患の潜在的なリスクが明らかになることがあります。がんの場合、多くは生活習慣や環境など後天的な要因によるもので、遺伝性のがんは1割程度ですが、リスクの有無は自分だけでなく血のつながった身近な人たちにもかかわる情報。リスクを意識することで積極的な予防や検診につながる半面、「いつか発症するのかも」「身内は大丈夫だろうか?」といったストレスが日常生活の支障になることも…。
当院では、遺伝性のがんをはじめとする遺伝性疾患全般や、遺伝に関する心配事を幅広く受け止め、適切な治療やサポートにつなげる遺伝子カウンセリングに対応可能な「臨床遺伝外来(臨床遺伝診療科)」を開設しています。不安を抱えて一人で悩まず、専門的な知見を持つスタッフにご相談ください。
〈臨床遺伝外来(臨床遺伝診療科)〉
問合せ先:がん相談支援センター
診療日:毎月第2・4火曜日 14~17時(要予約)
※当院の患者さん以外も広く利用できます
腫瘍内科及びがんゲノム医療について
腫瘍内科及びがんゲノム医療については主治医にご相談ください。