日本赤十字社 高松赤十字病院

ロボット手術センター

特色

最新機種が2台という充実の体制

2022年1月1日に、当院は新たにロボット手術センターを開設しました。人間の手や目では対応できないきわめて繊細な手術を、コンピューター制御の下で精密に行えるのが、ここでいうロボットこと「ダビンチ」の強み。当院は香川県で初めて最新機種2台をそろえ、患者さんの治療に対応しています。
当院でのロボット手術の開始は2013年7月です。香川県で最初の施設としてロボット手術をスタートしました。今ではロボット支援手術は全く普通の手術になりました。保険診療という観点からロボット手術の拡大をみますと、2016年には腎がんの腎部分切除術、2018年には心臓弁形成術、縦隔腫瘍、肺がん、食道がん、胃がん、直腸がん、膀胱がん、子宮体がん、また、子宮筋腫などの良性子宮腫瘍、2020年には、胸腺摘除、膵臓がん、腎盂形成術、骨盤臓器脱手術が保険適応となりました。すなわち、泌尿器科だけではなく消化器外科、呼吸器外科、婦人科、心臓血管外科など多くの診療科でロボット手術が保険適応となっています。2022年4月には大腸がん、尿管がん、副腎腫瘍などに適応が拡大されました。

同じダビンチでもXiは格段の進歩

当院のロボット手術はダビンチSiという機種で開始し、その後2018年12月にはダビンチXiという最新機種に更新されました。順調に手術件数は増加し総手術件数は1400件程になりました。増加した症例に対応するために2021年12月にダビンチXiを追加導入し、2台体制となりました。実はダビンチはXiという機種になってやっとロボットらしくなったのです。近隣の施設ではまだダビンチSiを使用していますが、ダビンチSiは自動的には全く動きません。さらにカメラや手術器具の長さもちょっと寸足らずでやりにくいです。ダビンチXiでは位置合わせが自動で行われます。各アームが最適位置に動くので外でのぶつかり合いが少なくなりました。収納や起動のときにも自動でアームが展開されます。長さも適正となっていろいろな種類の手術に無理なく対応することができるようになりました。

香川県で最初に高松赤十字病院に導入されたダビンチSi
香川県で最初に高松赤十字病院に導入されたダビンチSi

当時は画期的な装置でしたが驚くほどに改良されたダビンチXiの導入によって退役しました。

最新モデルのダビンチXi
最新モデルのダビンチXi

最新機種は自動化が進みより柔軟な動きも可能になりました。最新機種Xiは4つのアーム、電気メス、カメラなどを備え、あらかじめ手術する場所を指示するだけで、あとは自動で最適なアーム配置となります。旧機種は手術する場所に人間が手動でアームを合わせていましたから、これは大きな進歩です。鉗子アームの関節が増えたことと鉗子の長さが10センチ程度長くなったことで、「アーム同士がぶつかって作業ができない」ケースが減り、より柔軟でスムーズな手術が可能です。

人間には不可能な動きもロボットならできます

外科手術における内視鏡手術は、患者さんの体に小さな穴を開け、そこから挿入した器具を医師が手で操作して行います。モニターに映し出される体内の様子は肉眼で見るより大きく鮮明に映り作業がしやすく、大きく開腹する手術に比べて低侵襲であることもメリットです。こうした内視鏡手術に、ロボットによる支援技術を加えた最新の術式をロボット手術と呼びます。これまでよりもさらに視野が広く、3D画像や手ぶれ補正機能なども備えて、正確かつ精密な手術が可能になりました。人間の手の動きには限界があり、内視鏡手術は途中で開腹手術に切り替えることもありえますが、ロボットは細かい作業を得意とし、人間の手では不可能なことにもほとんど対応できるのが特長。非常に繊細な作業を伴うことが増えた近年の手術にはぴったりの技術です。

将来はコンピューターが手術をすることになるのでしょうか。現在は、手術操作はすべてコントローラーを術者が遠隔操作することで行われます。遠隔操作といっても同じ手術室内の1、2m離れたところからの操作です。勝手に機械が手術をするわけではありません。また、ロボット手術で使用する鉗子類は大変繊細なものです。下記写真のメモリは1㎝です。つまり、この鉗子の幅は5㎜です。

さらに、ダビンチXiは術野に向かって最適なアーム位置をコンピューターで制御します。もちろん手動でも可能ですが、コンピューターによる計算された立体感覚にはかないません。

下記写真は、3-0の糸での縫合中の場面です。カメラの解像度や鉗子の繊細さをおわかりいただけるでしょうか。開腹手術では得られなかった視野と操作です。

香川県で初めて産婦人科ロボット手術が開始

ダビンチ手術の拡充とともに院内連携も強化。現在ダビンチを扱う技術を持つ医師は泌尿器科6人、消化器外科4人、産婦人科3人、呼吸器外科1人。
産婦人科のロボット手術は全国的には拡大していますが、香川県では初めての導入です。腹腔鏡手術の経験を生かしてさらに低侵襲なロボット手術を始めました。今後もトレーニングを進めて人材を増やし、体制充実を図っていきます。

対象疾患と診療実績

ロボットが最も活躍しているのは、泌尿器科分野。特に前立腺がんは早くから健康保険が適用され、当院で最も症例数の多い病気です。開腹手術が主流だった時代、手術の負担が大きすぎる高齢の患者さんには緩和ケアで対応することが多かったがんも、ロボットを使えば年齢を問わず低侵襲に精度の高い手術ができ、術後の生活の質も守れるようになってきました。体の奥深いところで極細の針と糸を使うロボット手術の技術は、開腹手術では不可能な領域。前立腺がんをはじめ繊細な技術を求められる手術で、特に強みを発揮しています。もちろん、がんの治療はロボットのみに限りません。薬や内科的療法も近年どんどん進歩しているところ。特に検査精度の向上は、手術が必要な患部を正確に把握し、ロボットのアームの位置合わせにも深く関わる重要なポイントです。適切な治療のためにさまざまな専門家がチームで臨み、医師は患者さんにとって何が一番いいかを常に見極めながら、治療に当たっています。ですが、幾ら術前に検討していても手術では想定外のことが起きることがあります。1例1例の積み重ねが非常に重要だと考えています。現在1400例の経験を積んだことに一定の達成感もありますが、それ以上にこれから1500例、2000例とさらに研鑽していく技術だと思っています。特に前立腺がんや膀胱がんは、ロボット手術で「治る」「術後のストレスが少ない」病気になりました。放置せずに、標準的な治療を受けてください。

泌尿器科の活用例 がんの治療で活躍しています

腎臓がん

昔は腎臓を一つ丸ごと摘出していましたが、今は部分切除が主流。全摘出は術後の負担が大きく、「二つあるから一つ取っても大丈夫」は大きな間違い。できるだけ温存することを重視する上で、ロボット手術が大きな役割を果たします。

膀胱がん

これまでは早期に発見できれば内視鏡で手術、進行していれば全摘出で術後は人工膀胱(腹部に新しくつくった人工の排尿口)での生活もありうる病気でした。術後の生活の質が低下するだけでなく、患者さんが高齢になると人工膀胱のケアが難しくなることも...。しかしロボットを使えば、当院の場合は約6割の患者さんが代用膀胱(膀胱を切除したのち自分の腸の一部で新たに作った膀胱)で元通り排尿できる状態に。これもロボット手術ならではのメリットです。

前立腺がん

毎年約10万人が発症している前立腺がん。ただちに命にかかわるものではなく10年生存率も高いため、つい軽く考えてしまいがちですが、実は毎年約1万5000人もの男性がこの病気で亡くなっています。しかし、生死にかかわる病気ではないと捉え、安易に自分の判断で定期受診をやめてしまう患者さんも…。その結果、異変を感じた時には再発したがんが骨にまで転移していたケースも見受けられます。また、術後10年以上経過したにもかかわらず再発することもありえます。死亡するリスクがある病気だと理解し、標準的な治療を適切なタイミングで受け、継続的に病気と向き合うことが重要です。「手術をしたら尿漏れをするようになる」と敬遠する患者さんも少なくありませんが、ダビンチ手術の導入で、尿失禁ゼロを目指せる段階になっています。

地域の先生方へ

ダビンチXiが2台も整備されている施設は全国でも多くはありません。先生方に多数の患者さんをご紹介いただき、おかげさまで当院のロボット手術は順調に件数を伸ばしてまいりました。やや待機期間が長くなっておりましたので2台目のダビンチXiを導入いたしました。
これにあわせて2022年1月にロボット手術センターを新設しました。多くの診療科においてロボット手術の拡充を図るとともに、看護師、臨床工学技士、事務部門など関係部署の連携と調整体制を強化するためです。その目的は安全にロボット手術を導入することにあります。手術を受ける患者さんに危険が及ぶことがないように関係部署が緊密に連携をとり、導入前のシミュレーションを繰り返し行い、手術前後で疑問点や不備な点を抽出し、それを解決しながら円滑な導入をはかることがこのセンターの使命であると思っています。
ロボット手術は簡単な手術ではありません。継続的に一定件数の手術を経験してゆかないと手術の質の向上、維持は困難です。トレーニングやカンファレンスを通じて今後も研鑽を続けて参ります。今後もご支援をいただけますようお願い申し上げます。
近いうちにロボット手術に関する患者さんの相談コーナーを開設したいと思っておりますが、それまでの期間は各診療科にご相談くださるよう患者さんにご説明をお願い申し上げます。

スタッフ紹介

スタッフ名 専門分野 認定医・専門医等

川西 泰夫

ロボット手術センター長 川西 泰夫
男子性機能障害、男性不妊症、ロボット手術 日本泌尿器科学会専門医・指導医
日本泌尿器学会泌尿器腹腔鏡技術認定医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本泌尿器内視鏡学会泌尿器ロボット支援手術プロクター指導医